top2.特徴3.hemiとは4.まとめ


ヘミオラについて


もくじ
1.2021年07月15日更新:ヘミオラという現象と実例
2.2021年07月15日更新:ヘミオラの特徴
3.2021年07月15日更新:hemiとは
4.2021年07月15日更新:まとめ


1.ヘミオラという現象と実例


ヘミオラとは、もともと、ルネサンス、バロック期から古典派の3拍子の曲に見られる、リズムの遊びのひとつです。
3拍子で書かれた曲の2小節分の長さ、すなわち3拍+3拍、計6拍を、「2拍が三つある」ようにする現象です。
その2小節は、元の倍の長さを持つ「大きな1小節」であるかのように感じられます。

そのような作曲上の仕掛けであり、そう演奏されるよう期待されています。
もし奏者が、ヘミオラだと気付かないで弾くと、間違いとは言えないものの、残念な演奏だと言えると思います。


この譜例は、Johann KriegerのMenuet(1697年)です。


この部分のリピート記号までを、ギターで弾けるようにして現代風の書き方に改めたものが、次の譜例。



1小節目から4小節目までは普通に3拍子ですが、5~8小節は中央2小節にヘミオラがあります。
譜例で灰色の枠で示したところです。


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2.ヘミオラの特徴


ヘミオラの一般的な特徴は、
①ヘミオラが置かれるのは音楽的な区切りの手前にある4小節の中央2小節であり、終止形を飾って、区切りの終止感を強調している

②中央にヘミオラを含む4小節の直前の4小節はヘミオラがないことが多い
(ただしフランス式クーラントは例外)

③そこがヘミオラであると記譜されてはおらず、奏者も聴き手も、ここらにヘミオラがありそうだ、との見当がついていなくてはならない
にもかかわらず、音符からヘミオラなのかどうかを決定できないこともある
(ヘミオラとして書かれたであろう箇所を、ヘミオラなしと歌えないわけではない)

④ある年代までの、
ガリヤルダ、サラバンド、メヌエットなど3拍子の曲には、各曲に、複数回のヘミオラが、ほぼ必ずあり、
パッサカリアやシャコンヌでは、段落を示すかのようにヘミオラが使われ、
ジーグは、3拍子で記譜されていてもヘミオラはない、
フランス式クーラントでは至る所に次々にあり音楽の区切りとは関係がない

という風に、舞曲ごとの様式、「しきたり」として定着していた

⑤「小節」という考えに基づいて規則的に縦線が引かれるよりも古くからあった
(音符という一点集約型の記号だけで持続の長さを表現していた時代からヘミオラはあった)

などかと思います。

Beethovenが、ヘミオラと知ってる人たちだけが楽しめてしまう傾向を嫌ったのか、このような伝統的なヘミオラを使わずに、もっと聴いていて明らかにわかる、新しい自由なヘミオラを使い始めました。
交響曲第3番の第一楽章が典型例なのですが、「びっくりヘミオラ」と呼んでよいと思います。
この時期以降、あまりどなたも「伝統ヘミオラ」を、書かなくなったようです。

ヘミオラによく似たリズム遊びとして、SanzのCanariosのように、6拍子において、6つの拍が3+3で進む中に、時折2+2+2が置かれる現象もあります。
特に中南米の音楽では多用されています。
これは、本来はヘミオラとは言いません。

ただ今日、拍子が変わったかのようなリズム遊びのことなら何でもヘミオラという人もいるようで、ヘミオラの定義はあいまいだということです。

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3.hemiとは


ヘミオラという言葉を調べると、hemiが「半分」の意味で「半分が追加されたひとつ」といった解説が出てきます。
私はどの解説を読んでも、「半分」が一体何の半分なのか、納得のいく説明に巡り合っておりません。

ということで、ここからは仮説となります。
Thomas Morleyの音楽書(「平易な実践音楽の手引き」1597年)の最初の方の16ページに、当時の音符の長さを整理した図と表があります。



この図は、一番上の段にある音符「 」が二つ分で2段目の音符「 」になり、さらにそれが二つ分で3段目の「 」になり…ということを示しています。
この図の比の系列になる場合であれば、曲の冒頭にCと記される、と説明しています。

2段目の音符 の長さを仮に1とすれば、ここにある5種類の音符の長さは


となります。

次の表で、枠で囲んだ列がこのことを示しています。
記号Cの上に、5種類の音符が積まれていて、音符によって上下から挟まれている数字は、下の音符の長さが上の何倍であるかを示していて、この列の場合はすべて2となっています。
音符の左隣の数字は、 =1としたときの音符の長さを示しています。



ここで注目したいのは、この表のこれ以外の列を見ても、上下に隣接する音符の比は、2倍と3倍しかなく、4以上の数がない点です。
私たちは小節線という、この比以外に持続を測る手段を持っていますが、この時代にはまだそれはあいまいでした。
今日「小楽節(ショウガクセツ)」と呼んでいる4小節のまとまりは、この時代には、あくまで、2小節を示す記号の二つ分の長さとみていたのではないでしょうか。
つまり、必ず2小節という単位を経て4小節を意識していた、と思われます。

これはちょうど私たちが1時間ほどの時間を直接3600秒などとは意識せずに、必ず分という単位を経て意識するのと同じ習慣です。
3600と違って、4は小さな数なので時代と共に次第に直接意識できるようになり、現代では、2小節という単位のまとまりはあまり意識されなくなったのでは、と、私は推測しています。

ヘミオラは、この2小節の単位を、ふたつ、またぐように生じます。
ふたつの2小節をA+B(1小節づつはa1、a2、b1、b2)とするならば、Aの後半1小節とBの前半1小節(つまりa2とb1)が結合して、6拍で大きな3拍子となり、その前後(外側)にはa1とb2の各1小節が余っている状態です。
図示すると次のようになります。


AとBの各2小節は、Morleyの記号ではそれぞれが「 」であり、比の系列は先ほどの表の「 」の列に相当。


AとBの半分ずつを結合させてできた中央の「 」の中の分割については、Morleyの表の「 」の列に相当。

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4.まとめ


さて、Morleyの記号とKriegerのMenuetを合わせてみますとこうなります。


ヘミオラという用語の実感として、
hemiは「 」の半分の意味であり、AとBから半分づつを連れて来て一つの「 」を作る、
と理解してもよいでしょうし、
また、
中央にできた一つの「 」(Morleyの書物ではlongと呼んでいます)へと、両端に残された半分を持って来て、引っ付けて、一桁上の「 」(large)を形成する、
と理解してもよいと思います。

数多くの実例に触れて、ヘミオラへの確信が深まりますと、
その場面の新しい見え方が、とても楽しいと思えて来ます。
ダウランド、バッハ、ヴァイスなどの曲で3拍子(ジーグ以外)ならば、まずヘミオラがあると考えていただいてよいくらいですし、ハイドン、モーツァルトなど古典派のメヌエットにも、あります。


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